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峰山簡易裁判所 昭和31年(ハ)31号 判決

原告

安達弘

被告

三上保

主文

被告は原告に対し金壱万九千五百六拾円及び之に対する昭和三十一年九月十二日以降完済に至る迄、年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

本判決は原告に於て金五千円の担保を供するときは仮に執行することが出来る。

事実

(省略)

理由

原告主張の第一の事実は被告に於て之を認めるところで然も原告主張の事実による債務不履行に基く損害賠償の請求は正当である。次に原告主張事実第二以下について判断する。真正に成立したと認める甲第一号証の一乃至九、甲第二号証の一乃至七、及証人安達俊夫の証言によれば、峰山簡易裁判所昭和二十六年(ユ)調第六号土地明渡請求調停事件につき、昭和二十六年四月二十六日成立した調停調書に対し、被告及訴外三上たけから原告に対し右調停は錯誤により成立したもので無効であるとの理由により請求に関する異議の訴を峰山簡易裁判所に提起したが昭和二十九年十二月二十八日被告等敗訴の判決があり、被告等は之を不服として控訴し、京都地方裁判所に於て昭和三〇年(レ)第二号事件として審理の結果昭和三十年二月二十六日右控訴は理由なきものとして控訴棄却の判決があり、被告等は更に上告を申立て昭和三十年六月十八日同裁判所で上告却下の決定があり確定したこと。被告及訴外三上たけから原告に対し右調停調書により被告等の収去すべき建物に付て買取請求を原因とする請求に関する異議の訴を峰山簡易裁判所に提起し、昭和三十年七月三十日被告等敗訴の判決があり、被告等は之を不服として控訴の申立をなし、京都地方裁判所に於て昭和三〇年(レ)第四二号事件として審理の結果、昭和三十年十月二十二日右控訴は理由なきものとして控訴棄却の判決があり確定したこと、右両異議事件の被告等の控訴に当り、原告は訴外弁護士黒田〓常を原告の訴訟代理人に選任し、控訴審の原告の訴訟行為を為さしめたことを明白に認めることが出来る。又右控訴審に於ける原告の訴訟代理人黒田〓常に対し原告から控訴審の訴訟報酬として右両事件につき各着手金三千五百円、旅費日当二千五百円、成功謝金四千円宛を支払つたことは被告の明に争はない事実である。被告は右控訴は何れも理由のある控訴で調停の履行を遷延又は回避するためのものではない、と抗争する。然し調停の履行を遷延又は回避する為めのものであつたか否かは別として、右控訴の申立が何等理由のないものであつたことは、右控訴が何れもその理由のないものとして棄却せられ確定したことによつて明確である。元来右請求に関する異議の訴は前示各証拠によつて認められるように、被告等が原告と被告及訴外三上たけとの間に成立した調停調書の無効、又は被告等の収去することになつている建物の買取りの請求を主張するにあつて、もとより被告等が之が無効又は建物買取り請求権あることを信じて請求に関する異議の訴を提起するは正当としても、一審に於て敗訴の判決があつた以上、被告等が更に右判決を不服として控訴の申立をなすに於ては、その不服が理由なき限り相手方に控訴によつて与えた損害に対し、不法行為上の責任を負はなければならない、況や被告は右二件の控訴以外に於ても真正に成立したと認める甲第三号証の一、二、甲第四号証の一乃至五、甲第五号証の一乃至八、甲第六号証の一乃至一四、甲第七号証の一乃至七によつて明白なように、右調停に対し、昭和二十九年四月二十三日再度の調停申立を為し、同年六月十四日右調停に係る宅地上の建物につき峰山簡易裁判所に於て代替執行の授権決定があるや即時抗告を為し、京都地方裁判所に於てなしたる右抗告棄却の決定に対し再抗告を為し、又昭和二十九年六月四日右調停調書に対し峰山簡易裁判所に再審の訴を提起し、同事件の係属中担当裁判官除斥の申立を為し、更に昭和三十年八月三十日第二次の再審の訴を提起すると共に同事件の担当裁判官忌避の申立を為し、京都地方裁判所に於て之が却下せられるや即時抗告を為し、別に同事件につき担当裁判官除斥の申立をなし、京都地方裁判所に於て却下せられるや抗告の申立をなし、又昭和三十一年七月二十三日被告は同一調停につき第三次の請求に関する異議の訴を峰山簡易裁判所に提起する等、あらゆる手段を以て原告の正当なる権利行使を妨害したことは、前示各証拠によりその何れの申立も理由なきものとして却下、又は棄却せられていることに徴して明白であつて、前示控訴と共に正当なる権利の行使を逸脱し、権利の濫用と言うべく、斯る一連の訴訟行為は公序良俗に反する違法行為たるを免れない。次に被告は民事訴訟は本人訴訟を許しているのであるから訴訟代理を選任する必要はなく原告は無用の出費をしたものと主張する。然し民事訴訟法は被告の言う如く本人訴訟を認めてはいるが、弁護士を訴訟代理人とすることを訴訟当事者の権利として認めている。従つて原告が弁護士を訴訟代理人に選任し、之に要した正当な費用は無用な費用と言うことは出来ない。尚被告は右控訴事件については訴訟費用額確定決定があるのでそれ以上の損害につき賠償の義務がないと主張するが訴訟費用額確定決定は訴訟法上の求償権を確定する裁判であつて、私法上の損害賠償請求権に及ぶものでなく、本件原告の請求は専ら訴訟代理人に支払つた着手金、成功報酬金で、訴訟法上の求償権に含まれない損害であるから、これ又右被告の主張は理由がない。よつて原告が訴外弁護士黒田〓常に支払つた着手金並に成功報酬金額が正当なものかどうかについて考えるに鑑定人野瀬長治の鑑定の結果によれば右控訴事件の性質と京都弁護士会報酬等標準規程、日本弁護士会報酬等基準規程等に照し、原告の支払つた額は何れも正当なものであることを認め得る。仍て原告の前示被告の債務不履行による損害金四千八百円と右被告の不法行為に基く損害金一万五千円中、一万四千七百六十円、合計金一万九千五百六十円の賠償並に本件記録により明白な本件訴状が被告に送達された日の翌日である昭和三十一年九月十二日以降、完済に至る迄年五分の損害金の支払を求める本訴請求は正当であるから之を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条第一項を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 北村貞一郎)

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